例えば、水面から10cmの位置に腕を伸ばしたとして、そこで肘を緩めてやると肘が勝手に曲がっていきます。このとき、肘の位置は水深10cm、キャッチのポイントはそこから前腕の長さ分だけ下の水深40cmになります。結構いい恰好ではないでしょうか。
肘が水深10cmというのはちょっと辛そうですが、もう少し下げてやると、力も入りそうですし、ポジション的にも良さそうです。
肘を緩めるとカンタンに書いていますが、実際にやってみるとそんな簡単にはできません。これも腕全体の柔軟性が必要な気がします。
実際、イアンソープのキャッチ時のフォームを見ると、肘から足先までが一直線で、肘から先の前腕部だけが約90度折れ曲がった状態です。
この肘が90度に折れ曲がった時点で、反対側は入水が始まっていますので、ほぼこのモデルの状態に近いです。モデルの可動域にやや難がありまして、本物の方がもう少し肘が上がっている印象です。ソープの泳ぎでは肘から背中がほぼ一直線になっています。
肘の高さから肘が90度に折れ曲がる(正確には66度だそうですが見た目的には90度に見えます)までのこの瞬間が最も速いのす。もう少し正確にいうと、キャッチ動作に入った瞬間ですから、見た目的には肘がまだ曲がっていない段階から曲がり始めた瞬間が最高速度地点です。
最高速度地点です。恐らく最高速度が出ているので、チカラが入っていないのではないかと思います。そもそもあの角度でチカラを入れるというのは難しいように思います。先ほど書いたように肘を緩めることで、水に押されて一気に肘が折れ曲がるために最高速度が出ているのではないかと私は想像しているのです。
肘が頭の前にある位置から肩の当たりにくるまでがかなり遅い動作をしています。そして、肩から胸あたりに来る段階ではもう一度加速し、プッシュでまた遅くなります。
ちなみに、反対側の右腕でキャッチする時には、ここまで極端に肘が曲がることはない印象です。恐らく、右呼吸するために、左手はより長い時間前に伸ばしているために左手のキャッチは極端に曲げるだけのタメがあるのでしょう。(画像の撮影角度の寒霞渓でそう見えるだけなのかもしれませんが・・・)
遅いときというのは、チカラが入っているからなのかリラックスしているときなのか。最高速を出しているときがチカラを抜いている時なのならば、遅いときはチカラが入っている時と想像できますから、肘が頭から肩に移動する間と、プッシュの段階で瞬間的にチカラを入れて加速していると想像できます。
そして、肘が頭から肩に来る間というのがゼロポジションになっているようで、また、この段階であれば大胸筋・広背筋を使ってプルできますから比較的楽に水をかけるのではないでしょうか。
ところで、ゼロポジションの位置で入水してそのままキャッチすると、無駄な時間は減るのですが、泳いでみると、ちょっと違和感を感じます。
違和感というのは、これで速く泳げるのか?という違和感です。
なぜなら、その位置に入水して体重を腕に乗ると、ちょっと前のめり感がありすぎる印象なのです。
恐らく脇の下当たりに体重を乗せることができれば、その違和感はだいぶ解消されるのでしょうが、腕全体に乗っけた方が速く泳げるようには思います。
私は、腕を水平に伸ばす癖があるので、腕に体重を乗せるイメージで泳いでいますが、そうしますと、正にスケーティングという感じで身体が水の中を滑っていく感覚があります。一方でゼロポジションの位置に腕があると、沈み込んでしまう感じがするのです。
ということは、もう少し重心を後ろにしてやらないといけないわけで、そうすると加速度が落ちる可能性は高いと思っています。
入水から一気にキャッチならさほど問題はないのかもしれませんが、長距離の場合は十分なタメも必要ですから、そういう意味でもゼロポジションで一気に入水からキャッチは違和感を感じるのです。
でも、先ほどのイアンソープのストロークを検討するとキャッチはもっと上部で行い、プル動作をゼロポジションで行えば良さそうです。
グライド時の腕の高さですが、スピードが上がると水圧も上がりますから、腕は平行にしやすくなるわけで、スピードが遅いときは必然的に下がり気味になるのは仕方がないとこです。
むしろ、スピードが遅いなら遅いなりの高さに伸ばすまでのことです。
そして、スピードが上がってきたら、水に腕を載せるイメージで伸ばせばいいわけです。
ですから、最初からトップ選手のようなフォームを目指すのではなくて、スピードが上がってくることによってトップ選手のようなフォームに変化していくのが正しいアプローチだろうと思います。
さて、先ほどは片手だけのゼロポジションでしたが、今度は、両腕をゼロポジションにしてみましょう。
そして、片方を下に、片方を上にしてリカバリーの腕としてみます。リカバリーの腕は、肘を折ります。もちろんリカバリーの腕も3ゼロポジションの位置にしています。
何かいい感じではないですか?
バッチリ、クロールの形になっています。ここで、下側の腕に若干のタメを作ります。TIスイム的に言うと「我慢の手」です。
我慢の手をするためには、肩甲骨を開きます。決して身体を捻ったりはしません。
身体を捻って大きな力を出力するという考え方もありますが、身体を捻る行為というのはとても疲れます。そもそも身体を捻らないとできない動きというのは無理がある動作ですから、故障リスクも大きくなります。
できるだけ捻らないです動作が望ましいです。長距離を泳ぐなら尚更です。
このゼロポジションを意識したクロールは、身体をほとんど捻りません。
ここまでの人形の写真を見てもらえば分かるでしょうが、身体の中で捻っているのは首だけです。ローリングに合わせて首だけは捻っていますが、他の部位は全く捻っていません。
プルとリカバリーの腕を左右入れ替えても、ローリングに合わせて左右の上下を入れ替えて、首と肘を動かしただけです。それでも、不自然さはありませんよね。
すなわち、実際のクロールもほぼこのゼロポジションの位置に腕を置いておけば泳げてしまう筈なのです。
後は、身体をまっすぐ固定するだけです。実にシンプルです。
なお、ゼロポジションを意識した捻らないクロールは、スケーティングがうまくできないと、バランスを保つことが難しいです。
身体が横に向きますから、その時にバランスが崩れて軸がぶれると言うことになりかねません。
従って、十分に体幹を引き締めておく必要があるのです。
そうは言っても、陸上でやるよりは全然楽です。なぜなら浮力があるからで、水が下からある程度は支えてくれますから、バランスさえとれればお腹に力を入れなくてもそこそこ軸を保てるようです。
もちろん、体幹がビシッと決まった方が、力強い泳ぎができるのは言うまでもありません。
仮に水泳選手並の柔軟性があれば、ここに肩甲骨や胸郭のしなりが入ってきますから、我慢の手のタメがより作りやすいでしょう。
クロールって案外簡単にできるんだって思いませんか?
無理なくハイエルボーにもちゃんとなっています。
余裕があれば最後にプッシュ動作してみてもいいかもしれません。
後は、このフォームでどの位のタイムが出るかなのですが・・・(^_^;
推進力になっているのは、リカバリーの腕の重さです。我慢の手で、水をキャッチして、そこに身体を固定するイメージです。その時リカバリーの腕の勢いで、ローリングを左右入れ替えます。そうすると、キャッチしてロックしていた右側の手が、勝手に後ろ側になってしまいます。
後ろ側に流れる腕の反動でリカバリーします。そしてその勢いで・・・を繰り返すわけです。
基本的に、進行方向と反対側に力を意識的に加えること(いわゆるプル)はしていません。もちろんスピードアップのためにはプルも必要かもしれませんが、TIスイム的な動作で推進力は得られます。
秒速1m程度なら必要十分なのではないかと思います。
ストリームラインをとろうとしても、ゼロポジションの30度が登場します。
腹圧を入れてお腹をまっすぐにすると、腕はどうしてもこの30度くらい前に倒れてしまいます。
この腕を身体とほぼ水平に持ってこようとすると、今度は腰や脚、背中が反っていきます。
腹圧を入れて尚且つ腕もまっすぐとなると、かなり肩関節の柔軟性が必要となるのです。
これが大人になってから水泳を始めた人にとっての壁です。
さすがにストリームラインをゼロポジションで・・・と言うわけにはいきません。なぜって、ゼロポジションは楽ですが、水の抵抗が少ないフォームではないからです。
正しいストリームラインをとるためには、どうしても胸郭・肩の柔軟性は必要です。腰回りも必要でしょうか。
すなわち正しいストリームラインがとれるようになれば水泳選手に近いパフォーマンスが出る可能性が高いと私は考えています。
だからこそ、なかなか難しいフォームでもあるんですけど。
トップ選手は、100mで50秒かからないわけですから、秒速2m以上で泳ぎます。1500mでも15分かかったとしても、100mを1分のペースですから、秒速1.67mです。
このスピードをゼロポジションの稼働域の中の動きだけで出力するのはさすがに無理です。
そうなると、肩甲骨の柔軟性などが重要度を増してきます。
それ以前の問題として、肩甲骨がうまく動かないと、肩を動かすと肋骨も一緒に動いてしまいます。肋骨が動くと、背骨も動いてしまいます。
すなわち体幹がぶれてしまいますから、軸がぶれてしまいますから、水の抵抗が増えてしまいます。ですから、身体の柔軟性はゼロポジションで泳ぐとしても必要なのです。
ましてや秒速2mの世界を目指すとなれば尚更です。
水泳選手というと、水泳選手ならではの体型をしていますよね。いわゆる逆三角形と言われる体型です。
広背筋を鍛えることであの逆三角形を作り出すことができます。
ボディビルでいえば、チンニング、いわゆる懸垂が広背筋を鍛えるためには最も有効な方法です。
ところで、懸垂というと、肩幅よりやや広めにバーを握って、肩甲骨を寄せるようにして身体を持ち上げることで、もっとも広背筋に効くそうですが、この懸垂のボディポジションもゼロポジションっぽいと思いませんか?
もしもクロールのプルで広背筋を最大に使おうとすれば、正にこの肩甲骨を寄せてプルをすればいいことがわかります。水泳選手は広背筋が発達しており、その広背筋を最も発達させるポーズがこの懸垂のポーズなのですから、その身体の使い方のままローリングして泳げばいいというのは、全く間違った話でもなさそうです。
しかしながら、クロールの時にわざわざ必要もないのに胸を張って肩甲骨を寄せる無駄な動作はしなくてもいいでしょうから、恐らくは肩甲骨は開いた方がいいだろうとは考えています。
広背筋は肩関節の内転、内旋、伸展といった動作に関与しており、腕をまっすぐに伸ばした状態から身体を引きつけるという動作で使われますので、わざわざ無理矢理に肩甲骨を寄せて広背筋を使おうとする必要はないのです。
懸垂とか筋トレの場合は筋肥大などの目的がありますから、広背筋に最も効かせる必要はあるのですが、クロールの場合でいえば、広背筋だけでなく大胸筋など他の筋肉が使える方が遙かにいいのです。
だから、肩甲骨を寄せる必要はないと思うのですが、どうでしょう。(^_^;
なお、プッシュからフィニッシュにかけては広背筋よりは腹斜筋の仕事となるべきです。
さて、ここまでは、一般的なゼロポジションをベースに考えてみましたが、トップ選手の場合、必殺技を持っていると思われます。
それが、立甲です。
詳細は上記記事を読んでいただくとして、立甲ができますと、ゼロポジションが広がります。今までの角度より広くなりますから、より水面に近い位置でグライドもできますし、プルもゼロポジションの範囲でできてしまう可能性が高いのです。
ゼロポジションは、ここだからとゼロポジションをベースに考えてもダメで、人より上に行くには、やはり身体自体をバージョンアップする必要がありそうです。
というわけで、まずは、ゼロポジションを意識したフォームをマスターするところが第一歩です。
そこから更にスピードアップするためには、
胸郭・肩の柔軟性
ぶれない体幹
立甲・抜骨
このあたりになるのではないかと思います。
どれも、バイクやランにも共通してじゅうようですから、ある程度はクリアしておきたい問題です。
最後に、
ゼロポジションで水泳のことをあれこれ書いてきましたら、似たようなことを考える人を見つけてしまいました。
私と異なり医学的な知識をお持ちの方が書かれていますので、エビデンスが気になる方はそちらの記事を読まれることをおすすめします。私のはただの妄想ですw